柴田聡子さん(角匠アートギャラリー)

経済学部の卒業生を紹介する「卒業生の声」では、これまで多くの卒業生の方々に寄稿して頂きました。今回は、経済学部で提供されている「各国経済・ビジネス事情 in English 2」という授業(廣田陽子准教授担当)で講義をご担当頂いた柴田聡子さん(19923月経済学部卒業)に、受講生である吉田桃子さん(20164月経済学部入学、村井ゼミ)がインタビューし、記事を作成するという趣向になっております。

職業に関して

「今は主に肉筆浮世絵(版画でなく浮世絵師が実際に描いた絵)を扱うギャラリー、というか画商に勤めています」と柴田さん。

柴田さんの職場は「角匠(すみしょう)アートギャラリー」であると事前に知っていたものの、芸術分野の職業に疎い私は勝手ながら美術館で働く姿をイメージしていた。しかしながら柴田さんとのインタビューを通じて知ったのは、美術館で働くこととはまた異なる芸術を取り扱う仕事、「画商」の存在だ。

画商とは柴田さん曰く「基本的には絵を仕入れて、お納めする、買っていただくっていう商売です」。ギャラリーにも様々な種類があり、柴田さんの職場であるギャラリーの場合、多くの固定客を持ち、その顧客の好みに合ったものを主に仕入れて紹介することが大半だという。絵が掛かっていて、通りがかりにぶらりと入れるような、通りに面したギャラリーとは異なり、初めての顧客は事前に好みや予算を伝え、アポイントメント(予約)をとって訪問することがほとんどだという。顧客は一般の方から企業、美術館まで幅広い。


掛軸や巻物、屏風など、目利きである社長の選んだ作品を実際に自分の手で扱わせてもらえること、作品について調べ、買ってもらった作品が家で飾られたり、貸し出された作品が美術館に展示され人々を楽しませているところを考えたり実際に見ることが「楽しい」、「すごく嬉しい」と仕事を通して得られる魅力を挙げてくれた。

一方で肉筆浮世絵の画商という仕事上「仕入れるっていうことが死活問題」。歴史上の有名作家による作品は数に限りがあり、角匠で扱うレベルの作品を常に探すことは大変なのだという。

柴田さんが主に担当する仕事は、国内外にいる顧客やオークション会社、美術館などとの英語でのコミュニケーションで、書類作成やメール・電話での連絡を行っている。

英語に関して

英語を使用する仕事、そして夫が英国出身であり英語が日々のやりとりの7割を占めているという柴田さん。音楽や映画など、英語の世界に対する純粋な「好き」という思いが英語への興味をかきたて、学び続けることへのモチベーションを生み、仕事にまでつなげられたのだという。岡山大学に在籍していた頃はアメリカに1カ月半ほど滞在した経験があるというが留学はしなかった。仕事で通用する高い英語力の秘密を伺うと、「岡大のESS(サークル)が私の英語の原点です」ときっぱり。ディベート・ディスカッション・スピーチ・ドラマとESSにある4つのコースのうちディスカッションに所属し、4年間活動していた。事前に与えられる時事問題のトピックに対する自分たちの考えを立て、そしてその考えを支える根拠を調べていくことが「初めてやる経験で面白かった」。英語を人前で話す機会をコンスタントに持つようになった最初の経験はそのESSでの活動だったという。

  • 「英語っていうのはツールです」

日本国内でも教育、そして仕事など様々な場面で現在使用されている英語。中学生の頃から興味を持ち始め、高校でも一番得意な教科に、そして仕事上でも使用しているからこそ分かる英語を学ぶことの重要性を伺うと、「英語は最終目的ではない」と柴田さん。仕事を通じて出会った海外の人々は、文法・発音の正しさに関係なく自分の思いを伝えることで英語での会話を成立させていたという。英語をツールとして何をやりたいのか、英語を話せる先にある「目的」を早く見つけることが大事なのだと語ってくれた。

  • 「損なことはないと思います。経験していて、なんでも。」

画商で働いている柴田さん。実は現在の仕事に就いて約1年半。大学卒業後は日本で教育関係の企業で営業を行っていた。当時は仕事に対して面白さを感じていたものの、「せっかく英語を勉強してきたから海外で仕事して、英語を使って仕事をできたらいいのになぁ」という思いもあったという。その後知人の誘い、現地採用の募集を知り「行かずにいったら絶対に自分は後悔するな」と感じ、英語で書いた履歴書を手に香港へ渡ったことをきっかけにシンガポール、英国と海外で様々な分野の仕事に就いた経歴を持っている。

現在の自身の仕事については「畑違い」の転職であり、「美術は好きでしたけれどもこんな形で自分の仕事になるなんて思ってもみなくって」と評していた。転職をする時不安を感じなかったのだろうか?柴田さん曰く良い経験を積んでいくことには楽しさがあり、分野は違っても今まで積み重ねた経験はどこかに必ず活かされ、「損することは無い」のだという。「まぁ人生短いですしねぇ」と柴田さん。

1番記憶に残っている仕事に関して

そんな柴田さんに一番記憶に残っている仕事を伺うと、「FedEx(フェデックス:国際航空貨物のサービスを展開する会社)で仕事をしたこと」。海外で様々なバックグラウンドを持つ人々と一緒に仕事をしていくことができるグローバルな会社の中でいかに自分の意見を主張していくか「身をもって毎日経験できた」という。そしてアジアとヨーロッパの中で日本の立ち位置がいかに違うのかを実際目の当たりにし、「その違う環境でやり方を変えながら仕事をできたのがとても良い経験だったと思います。」と話してくれた。

後輩へのメッセージ

岡山大学に現在通っている後輩へのメッセージを尋ねると、「機会があれば何でもやってみるべきだと思います」と柴田さん。そしてネットで簡単に情報が手に入る時代だからこそ、下調べも大事だがそれで分かったつもりにならず、「現場主義で、実際に見たり、聞いたり行ったりする」ことで得られる経験を大切にして欲しい、というアドバイスもいただいた。