金 志映

1. モノの流れを捉える研究

構造波及分析の考案

既存の産業連関分析(図1の左)では,最終需要Fの変化から付加価値Vの変化を測定するが、その際にFの変化は(収穫一定の下では)価格変化を齎さないため、投入係数(=技術構造)Aを一定として、レオンチェフ逆行列からVの変化を求める。しかし、既存の分析は新技術(イノベーション)の経済波及効果を測る際に、Aが固定されているという弱点がある。Kim et al. (2017)では、生産技術自体の変化(図1の右の濃い紫の部分)を分析する構造波及分析を考案した。こちらでは(収穫一定の下であっても)価格が変化し、Aは変化する。この分析を使えば、産業部門毎の代替弾力性および生産性成長率が推定できる。本研究では接続産業連関表を用いて、約400の産業毎の代替弾力性と生産性増分を推定した。さらに、Kim et al. (2021)では、ICTイノベーションの影響について分析した。

図1:産業連関分析と構造波及分析の模式図
 

図2. 世界銀行のワークショップにて本研究の発表(ワシントンD.C.)

マクロとミクロのアーミントン弾力性

Kim et al. (2018)では、貿易統計によって輸入マトリクスを原産国別に分割し、日本と韓国の産業連関表を接続することで、約400財(原産国別)の間の代替弾力性を測った。この分析方法は、二時点の横断面データのみから代替弾力性を求めることができるため、長期時系列データを必要とせず、経済構造の時間的変化を分析が可能なことや推計対象とする財の種類が豊富というメリットがある。なお、既存研究のように外部情報を用いる必要がなく、同一の整合的なデータソースのみからのモデル構築が可能である。さらに、関税率等を政策パラメターとしてモデルに組み込むことで、FTAの影響などに関する一般均衡分析ができる。

図3:マクロとミクロのアーミントン弾力性の入れ子構造
出典:Kim et al. (2018)

2. カネの流れを捉える研究

グローバルフローオブファンズ統計の作成

 一国のモノの流れを捉える産業連関表の場合は、複数国間の連関に発展させた国際産業連関表の作成が進んできた。一方、一国のカネの流れを捉える資金循環表(フローオブファンズ統計)の国際版は、そのニーズが高まっているが、資金の究極的な出発点や最終的な到達点を把握するのが難しいのが現状であり、研究事例が乏しい。Hagino and Kim (2019)では、東アジアと米国を対象に、図4のようなグローバルフローオブファンズ統計を作成した。

図4. グローバルフローオブファンズの模式図

途上国のケーススタディー

 日本をはじめとする先進国の場合は統計の作成が整備されているが、途上国の場合は統計整備が遅れており、資料の不十分で研究事例も乏しいのが現状である。Burkowski and Kim (2021)では、ブラジルを対象にフローオブファンズ統計を整備し、近年のブラジルの経済不振について分析した。

参考文献
[1] E. Burkowski and J. Kim (2021) “As Origens dos Recentes Defaults da Economia Brasileira: Efeitos da Economia Real ou Decorrentes de Transações Puramente Financeiras?,” Desenvolvimento em Questão, 19(54), pp.48-67.
[2] J. Kim, S. Nakano and K. Nishimura (2017) “Multifactor CES General Equilibrium: Models and Applications,” Economic Modelling, Vol.63, pp.115-127.
[3] J. Kim, S. Nakano and K. Nishimura (2018) “Bilateral multifactor CES general equilibrium with state-replicating Armington elasticities,” Asia-Pacific Journal of Regional Science, 2(2), pp.431–452.
[4] J. Kim, S. Nakano and K. Nishimura (2021) “The role of ICT productivity in Korea-Japan multifactor CES productions and trades,” Applied Economics, 53(14), pp.1613-1627.
[5] S. Hagino and J. Kim (2019) “Development of U.S.-East Asia Financial Input–Output Table,” The Society for Economic Measurement 16th Annual Conference in Frankfurt, Proceedings.