【岡山大学】岡山大学准教授酒本隆太教授にインタビュー|計量ファイナンスを用いたポートフォリオ構築とは?

【岡山大学】岡山大学准教授酒本隆太教授にインタビュー|計量ファイナンスを用いたポートフォリオ構築とは?

本日はファイナンスを専門に研究なさっている、岡本大学准教授の酒本隆太先生に、「計量ファイナンスを用いたポートフォリオ構築」についてインタビューを行いました。

ポートフォリオ構築に計量ファイナンスがどう関わるのか、学術的な視点から解説いただいていますので、ぜひ最後までご覧ください。

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岡山大学 社会文化科学域 准教授

酒本 隆太


資産運用会社にてデータ分析を中心に4年半従事、外国為替証拠金取引業者でもデータ分析や経済分析に従事、その後大学にてファイナンスを開始。ファイナンスの中でも、計量経済学的な手法をポートフォリオ構築やリスクプレミアムの推定に応用する、計量ファイナンスを専門とする。

2.計量ファイナンスの基本

インタビュアー:酒本先生、はじめに「計量ファイナンス」について説明していただけますか?

酒本先生:計量ファイナンスは統計学・計量経済学的な手法をファイナンスの問題に応用する学問分野です。ファイナンスの世界で最も代表的なリスク指標として、「ボラティリティ」という資産価格の変動を表すものがあります。

インタビュアー:なるほど、そのボラティリティの推定はリスク管理において重要な役割を果たすのですね?

酒本先生:まさにそうです。ボラティリティを精度よく推定できる、あるいは予測できるような時系列モデルを提案することは、計量ファイナンスの典型的な研究のテーマとなっています。

また、新しいリスク指標を提案することも重要な研究領域で、これにはボラティリティを基にしたものもありますが、テキストデータなど全く異なるアプローチを取る場合もあります。

インタビュアー:そんな広範で深い研究がなされている計量ファイナンスの中で、酒本先生が特に力を注いでいる領域とは何でしょうか?

酒本先生:私自身は新しい時系列モデルの提案などの理論的な側面が強い研究よりも、理論の研究者によって提案された時系列モデルやリスク指標をポートフォリオ構築などに活かす方法を考える応用分野が専門になります。

3.ポートフォリオ構築の概念

インタビュアー:次に、「ポートフォリオ構築」について具体的に教えていただけますか、酒本先生?

酒本先生:もちろんです。ポートフォリオ構築の基本は、あるリスク水準において、期待リターンを最大化する資産の組み合わせを考えることです。ここで重要なことはリスクの水準が制約条件として入っていることです。

インタビュアー:つまり、ただリターンを追求するだけではなく、リスクのバランスも重視しなければならないということですね?

酒本先生:その通りです。リスクの水準を考えずに期待リターンを最大化するだけであれば、ハイリスク・ハイリターンな資産の保有比率を増やせばよいのですが、現実の投資においては許容できる損失の限界や、投資できる金額に制約があるため、そのようなことはできません。したがって、特定のリスク水準の下で期待リターンを最大化することが重要になってきます。

インタビュアー:ポートフォリオのリスクとは具体的にどのようなものでしょうか?

酒本先生:単一の資産のリスクは、上で説明したように当該資産の価格変動で表すことができます。しかし資産の組み合わせであるポートフォリオのリスクの場合は、資産間の価格変動がどの程度、相関しているかも重要な要素になってきます。

インタビュアー:なるほど、ポートフォリオ全体のリスクを見る際には、各資産の相互関係も考慮する必要があるんですね。そして、これらの期待リターンとリスクはどのように推定されるのですか?

酒本先生:期待リターンとリスクは共に過去のデータなどから推定されるものであり、将来の値が確定しているものではありません。そのため期待リターンあるいはリスクを精度よく推定する統計的なモデルがポートフォリオ最適化のさいに必要となってきます。

4.計量ファイナンスとポートフォリオ構築の関連性

インタビュアー:では次に、具体的な研究の例を用いて、計量ファイナンスがどのようにポートフォリオ構築に関わるのかを教えていただけますか、酒本先生?

酒本先生:例えばシンプルな研究の例としては、金をポートフォリオに含めることにより株式や通貨の価値が下落したさいに、ポートフォリオ全体の価値の下落を和らげることができるのかを検証するものがあります。

これを検証するためには金と株式、あるいは金と通貨の相関を推定する必要があるのです。しかし相関は市場の状況によって高まったり、弱まったりする性質を持ちます。

したがって市場の状況の変化を考慮した上で、相関を推定するモデルの利用が行われています。

インタビュアー:それは非常に興味深いですね。酒本先生自身の研究についても具体的な例を教えていただけますか?

酒本先生:私自身の研究でも通貨のキャリー戦略(高金利の通貨を買い、低金利の通貨を売る)に対して、貴金属が分散効果を保有しているかを検証したものがあります。

この研究によればキャリー戦略の収益が大きくマイナスになるさいには、銀の価格が上昇する傾向にあり、キャリー戦略と銀のロングポジションを同時に保有したポートフォリオに分散効果があることがわかりました。

また最近の私たちの研究で、株式市場や金市場の不確実性が高まるときに、ビットコインとイーサリアムの相関が弱まるというものがあります。この結果について、株式市場や金市場の不確実性が高まるさいには、代替資産として仮想通貨間の差異がより注目されるからと解釈しています。

インタビュアー:これらの研究は具体的な投資戦略にどのように活かされるのでしょうか?

酒本先生:私たちが行った別のタイプの研究としては、コモディティ価格や為替市場のボラティリティなどに基づき、通貨の投資戦略の期待リターンを推定し、戦略のウェイトを変更するという研究も行っています。

この時には投資戦略ごとの期待リターンの推定だけではなく、投資戦略の分散効果も考慮してポートフォリオを構築します。

5.投資初心者へのアドバイス

インタビュアー:最後に、投資初心者に向けて酒本先生からアドバイスをいただけますか?

酒本先生:計量ファイナンスでは複雑なモデルが色々と提案されていますが、実際の投資において重要なことは、必ずしも複雑なモデルがよい予測をするわけではないという点です。

例えば、期待リターンを予測するのは難しいから、期待リターンにはシンプルな仮定をおき、リスクの推定だけを行ってポートフォリオを構築する方法を提案している研究もあります。

このような方法が、運用を開始した後に高いリスク当たりリターンを出すことがあるのです。更に、投資戦略を分散させ、戦略の比率は均等にするといったシンプルな方法が、高いリスク当たりリターンを出す例も知られています。

インタビュアー:計量ファイナンスにおいてデータ分析の重要性についてはよく聞きますが、具体的にどのような点を注意すべきでしょうか?

酒本先生:私がもう1つ強調したいことは、分析するデータを丁寧に扱うということです。実際のデータは欠損値があったり、データが更新されていない時期があったり、何らかの加工が必要な場合が多いです。

まずはデータの平均値、標準偏差、最大値、最小値などを計算してみる、グラフを作成してみるなどして、扱うデータが分析に適する形になっているかを確認することが重要です。

大学で計量ファイナンスの授業をすると、推定モデルに集中するあまり、入力するデータに問題のあるケースが多い印象を持っています。