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社会保障

新型コロナウイルスと人口減少

岡山大学教授 岡本章

2021/10/27

新型コロナウイルスと人口減少

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せ始め、日本国内では9月30日、すべての緊急事態宣言、まん延防止等特別措置が解除された。感染拡大が収束すれば、元通りになるものもあれば、元には戻らないものもある。日本経済への最も大きな影響は、出生数の減少による人口減少の加速である。

 この間、新型コロナ対策で外出や活動の自粛が推奨されてきた。直接の対面は極力避け、どうしても対面が必要な場合はマスクを着用し、お互いの距離を取るといった感染対策が求められた。こうした感染対策は、男女の出会いを決定的に少なくする。男女の出会いが減れば、婚姻数が減り、出生数も減ってくる。

 そもそも日本国内の出生数は、新型コロナ感染症のパンデミック(世界的流行)が起きる前から国立社会保障・人口問題研究所の推計を下回って推移しており、危機的な状況にあった。【1】 これに新型コロナが拍車をかけ、2020年の婚姻数は前年比12.3%減の52万組、出生数は2.8%減の84万人になっている。【2】

 国際通貨基金(IMF)の2020年統計によれば、日本の1人あたりの国内総生産(GDP)は世界第24位(名目、約4万89ドル)だが、国全体のGDPは世界第3位(名目、約5兆45億ドル)に浮上する。【3】 これは、日本の総人口が1億2585万人(世界第11位)と相対的に多いことによる。

 日本より人口が多い中国の場合、1人あたりのGDPは世界第62位(名目、約1万511ドル)だが、国全体のGDPはアメリカに次ぐ世界第2位(名目、約14兆867億ドル)になる。中国のGDPはいずれアメリカを抜き、世界第1位になることが確実視される。人口は経済力の礎であり、人口減少は国の衰退に直結する。(図)

 妊娠から出産までの期間を考慮すると、新型コロナの出生数への影響が本格化するのは2021年以降である。国立社会保障・人口問題研究所は2033年に出生数が80万人を割り込むと予測するが、これが2021年に前倒しになる公算が大きい。出生数の減少は労働力の減少につながり、今後は労働力不足が深刻な課題となる。

 ドイツやイギリス、アメリカを始めとする先進国では労働力不足への対応策として移民の受け入れを行っている。【4】 日本でも新型コロナ感染症のパンデミック(世界的流行)以前はアジアの外国人技能実習生や中南米の日系人が日本国内の人手不足を補っていたが、新型コロナが収束しても外国人労働者が増えるとは限らない。【5】

 まず先進国の中で日本の賃金水準は相対的に低い。「失われた30年」とも言われるように、日本の実質賃金は過去30年間、ほとんど上昇していないからだ。外国人労働者にとって重要な最低賃金は全国平均で930円(約8.2ドル)。外国人にとって必ずしも魅力的な出稼ぎ先ではない。

 また、外国人労働者の待遇の問題もある。もともと日本の技術、技能を発展途上国に移転する国際協力を目的としていた外国人技能実習生制度がただ単に安価な労働力として使われている実態がある。外国人技能実習生、日系人の劣悪な労働環境は世界的に知られるようになっており、こうした労働環境は早急に改善する必要がある。

 日本政府は2014年、10年間で200万人の外国人労働者受け入れを検討すると発表した。同じ200万人を受け入れるにしても1~2年で200万人を受け入れる場合と10年かけて少しずつ受け入れる場合とでは、商品・サービスの消費を通じて個人が得られる効用は変わってくる。

 筆者が構築したシミュレーションモデルでは、受け入れ期間を9年にすると個人が得られる効用が最大になることが分かっている。【6】  日本経済を維持するために外国人の受け入れが不可避であるならば、どのタイミングで受け入れるかについても検討すべきだろう。

 

 おかもと・あきら 1964年、奈良県生まれ。京大経卒、同大学院博士課程中退。岡山大学経済学部助教授を経て、岡山大学学術研究院社会文化科学学域教授。フルブライト奨学金研究員、安倍フェローとして在外研究に従事した。京大博士(経済学)。

 

【1】国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成29年推計)』(2017年)の中位推計

【2】厚生労働省『人口動態統計(確定数)の概況』(2011~2021年)

【3】International Monetary Fund, “World Economic Outlook Databases,” 2021

【4】OECD, “Inflows of Foreign Population into Selected OECD Countries and Russia,” 2021

【5】OECDの定義によれば、2018年における日本への移民はドイツ、アメリカ、スペインに次いで多い。

【6】Okamoto, Akira, “Immigration Policy and Demographic Dynamics: Welfare Analysis of an Aging Japan,” Journal of the Japanese and International Economies 62, Article 101168, 2021

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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